先生インタビュー 〜八千代松陰中高 飯塚真吾先生
2017年度からトゥワイス・プランの探究型学習プログラムに取り組まれている、八千代松陰中学校・高等学校の飯塚真吾先生に、生徒が主体的に学べる環境づくりのためにどのようなことを考え、実践されているのかをお話しいただきました。
「学校教育はもっとよくできる」。大学の授業で確信した思い
Q.先生になったきっかけを教えてください。
「教育」というものに最初に興味を持ったのは、高校生のときに参加した、政治経済の先生が主催する勉強会でした。
それをきっかけに進学した大学の授業で、ある高校の先生が今で言うアクティブ・ラーニング型の授業を実践していることを知ったんですね。
そして、「学校教育はもっとよくできるのではないか?」ということに気づき、学校の先生になることを決めました。
先生方の中には、学生時代に「こんな素晴らしい先生がいたから自分もなりたい」と思って先生になる人も多いと思うんですが、自分はそうではなく、教育学を学ぶ中で学校教育を改善できる方法に気づいたことがきっかけでした。
どんな先生でもできる“授業の型”が必要
Q.どのような目的でトゥワイス・プランの探究型学習プログラムを取り入れたのでしょうか?
2017年に、学校として総合学習を考えていく流れがありました。特に大きな変化は「いろんな先生が関わっていく」ということでした。
私としては、1人の先生だけができればいいのではなく、“どのような先生でもできる授業”をつくらなければいけないという意識があったので、何か型になるものがあればいいなと思い、トゥワイス・プランを活用することにしました。
結果的に、その型を取り入れたことで、学校全体が積極的に動くきっかけになりました。
目的を達成するために身についた“論理的に考える力”
Q.トゥワイス・プランの授業を通じて生徒に変化はありましたか?
今年度取り組んだ中2の学年は、中1の頃からグループワークやチームでの活動は多く行っていたんです。ただ、はじめは少し反応が弱くて、話し合いがあまりできていないように見えました。
それが中2になって『ワールドツアーズワーク』に取り組む様子を見ていると、徐々に議論ができるようになっていく。
ただ意見を交換するのではなく、チームメイトとの対話をとおして共に創っていく、いわゆる「共創」ですね。ガイドブック制作という答えのない問いにチームで取り組むことで、目的のために役割を自分で見つけて行動することができるようになっていきました。
印象的なエピソードとして、『ワールドツアーズワーク』に取り組んだ後に、「修学旅行先で自分たちが何をしてくるのか」についてプレゼンをしたんですが、テーマを設定してそれにもとづいたとても論理的な発表をしていたんです。
そのプレゼンを見て、生徒たちが、目的を達成するためにロジカルに考えられるようになっていることに気づきました。
その他、コミュニケーションの面でも変化があったと思います。
年に1回、海外からの留学生と観光地を散策しながらコミュニケーションする校外学習があるんですが、ワークに取り組む前と後でコミュニケーションのスムーズさが全く違いました。
ワークでは事前の準備として「自分のことと日本のこと」についてしっかり調べる時間を取っていたので、コミュニケーションするための準備もできていたし、何よりコミュニケーションしたいという意欲が生まれていました。
Q.授業をよりよくするために、もっとこうしたいと思うことはありますか?
私たちから客観的に見ると、生徒たちは非常にたくさんの力を身につけているので、そのことを生徒自身がメタ認知できるようにフォローしていきたいと思ってます。
『ワールドツアーズワーク』の取り組みで言えば、もっと国や文化についてフォーカスできるように環境を整えて、生徒をバックアップしていきたいと思っています。
嬉しいのは、生徒たちが「自分で考えて行動する土台」ができていくこと
Q.先生として、やりがいを感じるのはどういうときですか?
先生には、“生徒との距離が近く、目の前の生徒が成長できるようにサポートするタイプ”と、“経営的な視点で俯瞰して、生徒が成長できる環境をつくるタイプ”の2種類あると思っています。
私はその中間くらいのタイプなので、「生徒が自分自身で考えて行動する土台がつくれたな」と思うときにやりがいを感じますね。
Q.そのために工夫されていることはありますか?
例えば授業のときに、ホワイトボードにあえて何も書かなかったりします。
ただ板書を取るのでなく、ノートのまとめ方から生徒が自分で考えて工夫するのがいいと思うからです。
また、社会科の授業でも「明治維新は“改革”か“革命”か?」という問いを出したとして、どんな答えが出ても否定しません。ですが「必ず自分の意見と、そう考える理由を伝えてください」と伝え、最後まで考えるということは徹底しています。
そして、ただ考えるのではなく「なぜ自分で考えなければいけないのか?」という授業の「意味や目的」を、生徒自身が理解できるように伝えています。
生徒とつくるのはフラットな関係性
Q.先生として、どのようなことを大切にされていますか?
話のはじめに、「先生はね」と言わないように決めています。
個人的になんですが、「先生」という一人称には権力性が含まれてしまっていると思っているので、生徒とフラットな関係性でいるために、「私はこう思います」という言い方をするようにしています。
そういう関係性をつくっておくことで、生徒も、先生の言ってることが絶対ではなく、ひとつの意見に過ぎないんだということがわかるのではないかなと。
卒業生にも、「もう私は先生ではないよ。対等な大人として扱うからね」とよく言っていますね。
「制限」と「自由」の矛盾を乗り越える人に
Q.生徒には学校での学びをとおして、どのようになってほしいと思っていますか?
自由に物事を考えられる、主体性のある人になってほしいと思っています。
その一方、もちろんルールやマナーを守れる、信頼される社会人になれなければ困る。
学校というところは基本的には制限が多いですよね。
うち(八千代松陰)も制服指導などかなり厳しい方だと思います。
中学生がルールやマナーの意味を理解し、身につけるのは簡単ではありません。
だから学校のルールがあるわけですが、そうした制限がある中で、自由に生きる力をつけてほしいというのは矛盾があります。
でも、その矛盾を乗り越えてほしいと思っています。
先生自身が学び続けること
Q.今の学校に必要なことは、どのようなことだと思いますか?
自分たちが「アクティブ・ラーニング」を経験してきた若い世代の先生も増えていますが、やっぱり知識を教えるのも重要なので、そのノウハウを学べる環境ができるといいと思っています。
「それぞれの教科の内容を体系的に教えられる技術」と「アクティブ・ラーニングの原体験」を併せ持った若い先生方の力は、きっとこれからの学校を支えてくれるはずです。
あとは、先生自身が生徒同様に、もっと学んで、そういう学んでいく姿勢を生徒に見せることが大切だと思っています。
私は、いろんなイベントなどに出向いて、学校のことだけでなく、世の中のことを学んでいます。
最近は、5社くらいのスタートアップ企業が集まるイベントにも参加しました!(笑)
そして、それを積極的に生徒に話すようにしています。
それは、生徒とのフラットな関係性をつくることにもつながっているんじゃないかなと思っています。
生徒が自分自身で学べる環境をつくるために、生徒とのフラットな関係性づくりや、授業においてのさまざまな試行錯誤をされてきた飯塚先生。その根本にある、「学校教育はもっとよくできる」という確信が伝わるインタビューでした。
飯塚先生、ありがとうございました。