先生インタビュー 〜江戸川女子高校 不破芳宣先生
情報科の授業でTWICE PLANの探究型学習プログラム『企業インターンワーク』に取り組む東京都・江戸川女子中学校・高等学校。
2015年の導入当初から授業を担当されている不破芳宣先生にお話を伺いました。
Q.先生になったきっかけは何でしたか?
小学校の理科の授業がきっかけでした。
当時ではかなり珍しかったのですが、アクティブ・ラーニングの授業をされる先生がいらして、
ある日、キーワードだけを黒板に並べて、「(このキーワードを)調べたい子は調べておいで」とおっしゃったんです。
好奇心に応じてそれぞれ調べてくるんですが、そこに自分はハマりまして、理科のノートだけが何冊も増えていったんですね。
小学校時代そこまで勉強が好きではなかった自分には、とても珍しいことでした。
もう一つのきっかけは、高校のときの先生でした。
文系・理系どちらの進路を選ぶのか悩んでいたとき、その先生に、「好きなものと得意なものは違う」と言われたんです。
「得意なものはスポーツ選手と同じで伸びる可能性はあるけれど、どこかで限界や挫折が来ることもある。一方で、好きなものは、最初はできないかもしれないけど、ずっと突き詰めていける」
そんなことばを聞いて、数学が好きだった私は、「じゃあ数学の教員になろう」と思いました。
ただ、他の教科、例えば国語の方が成績はよかったので、「本当に数学でやれるのかな?」と思いながら目指していました。でも、だからこそわからない生徒の気持ちを理解できるのだと、今になって思います。
進路の面談をすると、「先生になりたいんです」という生徒が一定数います。
得意ではないけど好きな教科の教員になりたいという生徒には、自分の経験とともに、「得意じゃないからこそ、できるまでの過程を理解して見守ることができるし、それをやりがいだと思えるから、好きな教科で挑戦すればいい」と伝えています。
今、取り組んでいる『企業インターンワーク』でも、生徒たちに「得意と好き」の両方を見つけてもらいたいなと思っています。
Q.トゥワイス・プランの導入初年度から授業を担当されていますが、一年目の取り組みは、いかがでしたか?
この学校に来たときには、既に『企業インターンワーク』の実施が決まっていたので、最初は「どうやって授業をやっていこうか」と考えました。
自分自身、小学校で経験して以来、いわゆるアクティブ・ラーニングで探究的に学ぶ機会がなかったので、「こんな感じかな?」と試行錯誤しながら進めていました。
はじめに伝えていたのは、この授業は、一方的に教わるのではなく、自分たちで考えてアウトプットすること。そして教員からは何も教えないということでした。
「江戸女らしくなくて、楽しかった!」。これは卒業式直前に生徒が言ってくれたことばですが、とても印象的でした。
伝統的な座学の授業も大事なんですが、それを活かしてアウトプットすることも大切で、何より生徒たちがそのことを楽しんでやっていたことが伝わりました。
「この授業は江戸女らしくありません」
それから毎年、これだけは授業のはじめに伝えるようにしています。
実は、普段の授業では寝てしまいがちな生徒も、この時間には生き生きと話していることがあるんですね。”昼休みの延長”みたいな感じで、ずっとおしゃべりが続くこともあります。でも、見守っていると最後にはリーダーやサブリーダーが「これどうしようか」「あれこうしない?」とテーマに引き戻して作業に戻るんです。
また、リーダーやサブリーダーは、「最初からリーダーになりたかった」という生徒はあまり多くありません。ですが、なったことで才能を開花させて、チームをまとめ、生き生きとする生徒が多いというのもたくさん見てきました。みんな、役割を持つことで自然とリーダーになっていくんですよね。
Q.トゥワイス・プランの全国大会『トゥワイス・アウォード』を2回開催させていただきましたが、会場校として印象に残っていることはありますか?
そうですね、「大変で疲れた。でも、それ以上に楽しかった」というのが率直な感想です。
スタッフとして参加した生徒たちが会を成功させ、達成感を得ている様子を目の当たりにするのは、私自身にとっても楽しくて達成感を得られる経験でした。
そうしたこともあり、『企業インターンワーク』の学年発表会でも、生徒たちにスタッフとして運営してもらっています。これも授業と同様、自分たちで考えて、動く、ということの練習の機会になっています。
Q.このような探究型の授業で工夫していることはありますか?
2つあります。
まずは、「生徒に気づいてもらうこと」。教員が言えばわかることも、自分で気づいてもらうようにするということです。
発表やグループワークの様子を見て、取り組みの様子をメモしているんですが、「自分自身で気づいてほしい」というのが根底にあるので、極力答えを言わないようにしています。
授業の最初に、「チーム組んで、はじめて」と言ったあと、もう何も言わなかったりするので、「先生の声、最近聞いていないよ」と言われることもありますね。(笑)
もう1つは、「大人の社会の一員として扱うこと」です。具体的には、教員から一方的に何か指示を出さず、自分たちから「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」をしてもらうという関係性を重視しています。
もちろん教員から声がけすることも大事ですが、自分たちから自発的にアクションを起こすこともそれ以上に大事だと思うんです。
例えば、以前に生徒が「携帯電話をプレゼンで使いたい」と言ったことがありました。校則違反でもあるので、それは悩みましたね。でも結局、職員室にある内線用の子機を携帯として使うことで解決しました。生徒からちゃんと相談・提案してきたら、その考えをできる限り尊重するようにしたいと思っています。
そして、自分たちからアクションをする、責任を持って動ける、そんな生徒になってほしいなと考えています。
Q.印象的だったチームや生徒のエピソードはありますか?
いろいろとありますが、はじめて自分の担任クラスが『企業インターン』に取り組んだときですね。
高2の全クラスの授業を持っていたんですが、担任のクラスだけしばらくモチベーションが低かったんです。中間で行うプレゼンでも全体的に意気込みが弱いままでした。私自身も、教科担当とクラス担任の接し方の使い分けに悩んでいたんですね。
そうして迎えた最後のプレゼンの日。全チームが、寸劇やネタを仕込んで今までなかったようなプレゼンをしていたんです。
「いつのまにこんな準備していたの?」。クラス担任としても教科担当としても全く気づかないうちに、たくさんの努力をしていた生徒たちのがんばりに、目頭が熱くなりました。
それから、2018年度の『トゥワイス・アウォード』で準グランプリを受賞した「空飛ぶからあげレモン」チームですね。
印象に残るプレゼンやチームは、楽しんではいるんですが”内輪ネタ”になってしまうこともありました。けれど、「空飛ぶからあげレモン」チームは、表現を楽しみながら、企画そのものを重視してやっていたんです。そこが今までのチームと圧倒的に違っていました。
ユーザー目線と企業目線の両方の視点を併せ持った斬新なアイディアで、日本航空の方からもとても高い評価を受けていました。
Q.「生徒を観察する」ことを常に大切にされていますが、気をつけていることはありますか?
そうですね、なるべく自分自身の視野を広げるようにしています。
普段私は、ぐるぐる机の周りをまわることはあまりしないで、教卓でじーっとしています。というのも、生徒の本音が出るときは”リラックスしているとき”だと思うからなんです。
教員があまり近くで見ていると、生徒たちはどうしても気にしてしまうので、なるべく自分が遠くにいることで生徒をリラックスさせます。そして、しっかりと聞き耳を立て、しっかりと目で見る。話している内容を聞きつつ、何を考えているのかなというのを観察するようにしています。
つまり、そうやってあまり存在感を出さないようにしていますね。だから「最近、先生は何しているの?」と言われてしまうんですが。
「探究」の学びでもなんでも、教員が教えるのではなく、生徒に気づいてもらうことが大切だと思います。教員がエンジンをかけて引っ張るのではなく、生徒が自分で選んで進むことが大事なのかなと考えています。
もちろん、その中で、生徒もわからないことを聞きたくなることがあります。そのとき必要なのは、それが「積極的な相談」なのか「受動的な質問」なのかを見極めることだと思っています。もし生徒が、受動的な質問に来たら、私はあえて冷たく対応しています。
例えば、プレゼンについて「何分で発表すればいいですか?」という質問に、「何分でもいいよ、任せるよ」と答えると、生徒たちは答えをもらえなくてどぎまぎします。次に、「1時間の授業の間で全チームが終わらないといけない」「全部の時間を発表に使えるわけではない」ということだけ伝えて、1チームあたりはどれくらいなのかは自分たちで考えてもらう。すると、ほぼ全てのチームが同じくらいの発表時間にまとめていました。
生徒がいい意味で相談や報告をする、そんな環境にしようと心がけています。
Q.これからの学校で必要なことはどんなことだと思われますか?
KDDIのインターンチームが「新しい学校を提案する」という企業からの課題に取り組んでいるときに、私も考えさせられたことがありました。生徒たちも指令に取り組む中で、「学校に通う意味は何か?」という問題に直面していました。
今まで学校で行われていた授業は学校がなくてもできます。学校はさらにその先に行かなくてはいけない。
そのとき何が残っているんだろうと思うと、私は「コミュニケーション」だと思うんです。コミュニケーションによって、「一生ものの友達」に出会えるかもしれないですし、「教員の何気ないひとこと」で、自分の目指すことに出会えるかもしれない。
この道を選んだときの自分がそうだったように、やはり直接のコミュニケーションで人の心は動かされると思っています。「コミュニケーション力のある人材を育てられる場所」がこれからの学校になってくるんじゃないかと思います。
生徒が自分で気づき、自分で動く、「生徒が主役になって探究する授業」を徹底し、4年間にわたって実践されてきた不破先生。
目指す理想の実現のために着々と実践し、常に進化されていく姿を今回インタビューさせていただきました。
不破先生、ありがとうございました。